民法第715条(使用者等の責任)

2013年(平成25)

【問 9】 Aに雇用されているBが、勤務中にA所有の乗用車を運転し、営業活動のため顧客Cを同乗させている途中で、Dが運転していたD所有の乗用車と正面衝突した(なお、事故についてはBとDに過失がある。)場合における次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
1 Aは、Cに対して事故によって受けたCの損害の全額を賠償した。この場合、Aは、BとDの過失割合に従って、Dに対して求償権を行使することができる。
正しい。ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う(民法第715条第1項)。共同不法行為の加害者間では、過失割合に応じて求償が認められる(民法第719条第1項)。したがって、Aは、BとDの過失割合に従って、Dに対して求償権を行使することができる。
2 Aは、Dに対して事故によって受けたDの損害の全額を賠償した。この場合、Aは、被用者であるBに対して求償権を行使することはできない。
誤り。第1肢の解説にもあるように、使用者Aには使用者責任に基づいて被害者に対する損害賠償責任があるが、これは使用者Aから被用者Bに対する求償権の行使を妨げるものではない(民法第715条第3項)。
3 事故によって損害を受けたCは、AとBに対して損害賠償を請求することはできるが、Dに対して損害賠償を請求することはできない。
誤り。数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする(民法第715条第1項、第719条第1項)。事故によって損害を受けたCは、AとBだけでなく、共同不法行為者であるDに対しても、損害賠償を請求することができる。
4 事故によって損害を受けたDは、Aに対して損害賠償を請求することはできるが、Bに対して損害賠償を請求することはできない。
誤り。Dが受けた損害はBの不法行為によるものであり、Dは、Aに対してだけでなく、Bに対しても損害賠償を請求することができる(民法第709条、第715条第1項)。

2012年(平成24年)

【問 9】 Aに雇用されているBが、勤務中にA所有の乗用車を運転し、営業活動のため得意先に向かっている途中で交通事故を起こし、歩いていたCに危害を加えた場合における次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
1 BのCに対する損害賠償義務が消滅時効にかかったとしても、AのCに対する損害賠償義務が当然に消滅するものではない。
正しい。本肢の場合、Bは不法行為に基づく損害賠償債務、Aは使用者責任としての損害賠償債務を負う(民法第715条)。両者の損害賠償義務の関係はいわゆる不真正連帯債務といわれている。「不真正連帯債務」とは、各債務者が全額についての義務を負うが、債務者間に緊密な関係がなく、弁済及びこれと同視し得る事由を除いて、一債務者に生じた事由が他の債務者に影響しないものをいう。両者の関係が不真正連帯債務であることから、次のような判例がある。(1)被用者Bに対する損害賠償請求権が消滅時効にかかっても、使用者Aに対する損害賠償請求権には影響しない(大判S12.6.30)。(2)被用者Bに免除しても、使用者Aの損害賠償義務には影響しない(最判S45.4.21)。よって、本肢の記述は正しい。
2 Cが即死であった場合には、Cには事故による精神的な損害が発生する余地がないので、AはCの相続人に対して慰謝料についての損害賠償責任を負わない。
誤り。被害者が即死した場合でも、受傷した瞬間に損害賠償請求権が発生し、相続人がこれを承継する(民法第709条、判例)。したがって、本肢の場合、AはCの相続人に対して慰謝料についての損害賠償責任を負う(同法第715条)。
3 Aの使用者責任が認められてCに対して損害を賠償した場合には、AはBに対して求償することができるので、Bに資力があれば、最終的にはAはCに対して賠償した損害額の全額を常にBから回収することができる。
誤り。使用者の求償権については、「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分散という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。」という判例がある。この判例によると、使用者の求償権は、信義則上相当な範囲に制限されるのであり、使用者Aは常にその全額を被用者Bから回収できるわけではない(民法第715条第3項)。
4 Cが幼児である場合には、被害者側に過失があるときでも過失相殺が考慮されないので、AはCに発生した損害の全額を賠償しなければならない。
誤り。幼児や精神障害者などの責任無能力者が損害を被った場合、被害者自身に過失がなくても、被害者を監督すべき義務がある者に過失があった場合には、過失相殺をすることができるかという問題に対して、判例は、監督義務者の過失を「被害者側の過失」と考えて過失相殺を認めている(最判S42.6.27など)。したがって、本肢の場合、被害者側の過失が考慮されることはある(民法第715条、第722条第2項)。

2011年(平成23年)

【問 8】 AがBに対して金銭の支払いを求める場合における次の記述のうち、AのBに対する債権が契約に基づいて発生するものはどれか。
1 青信号で横断歩道を歩いていたAが、赤信号を無視した自動車にはねられてケガをした。運転者はBに雇用されていて、勤務時間中、仕事のために自動車を運転していた。Aが治療費として病院に支払った50万円の支払いをBに対して求める場合。
契約に基づいて発生するものではない。AのBに対する債権は使用者責任(不法行為)によるものであり、契約に基づいて発生するものではない(民法第715条)。

2008年(平成20年)

【問 11】 Aが故意又は過失によりBの権利を侵害し、これによってBに損害が生じた場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
3 AがCに雇用されており、AがCの事業の執行につきBに加害行為を行った場合には、CがBに対する損害賠償責任を負うのであって、CはAに対して求償することもできない。
誤り。使用者が使用者責任により損害を賠償したときは、使用者は、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対して損害の賠償または求償の請求をすることができる(民法第715条3項、判例)。

2006年(平成18年)

【問 11】 事業者Aが雇用している従業員Bが行った不法行為に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
1 Bの不法行為がAの事業の執行につき行われたものであり、Aに使用者としての損害賠償責任が発生する場合、Bには被害者に対する不法行為に基づく損害賠償責任は発生しない。
誤り。使用者責任がある場合は被用者は免責されるということではない(民法第715条第1項、判例)。
2 Bが営業時間中にA所有の自動車を運転して取引先に行く途中に前方不注意で人身事故を発生させても、Aに無断で自動車を運転していた場合、Aに使用者としての損害賠償責任は発生しない。
誤り。Aに無断で自動車を運転していた場合であっても使用者責任は発生する(民法第715条第1項、判例)。
4 Bの不法行為がAの事業の執行につき行われたものであり、Aが使用者としての損害賠償責任を負担した場合、A自身は不法行為を行っていない以上、Aは負担した損害額の2分の1をBに対して求償できる。
誤り。損害の公平な分担という見地から、使用者は被用者に対して信義則上相当と認められる限度において求償することができる。損害額の2分の1ではない(民法第715条第3項、判例)。

2002年(平成14年)

【問 11】 Aの被用者Bと、Cの被用者Dが、A及びCの事業の執行につき、共同してEに対し不法行為をし、A、B、C及びDが、Eに対し損害賠償を負担した場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
1 Aは、Eに対するBとDの加害割合が6対4である場合は、Eの損害全額の賠償請求に対して、損害の6割に相当する金額について賠償の支払をする責任を負う。
誤り。加害割合には関係なく、損害賠償の全額を支払う責任がある(民法第715条第1項、第719条第1項)。
3 Aは、Eに対し損害賠償債務を負担したことに基づき損害を被った場合は、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、Bに対し、損害の賠償又は求償の請求をすることができる。
正しい。本肢記述のとおり(民法第715条第3項、判例)。
4 Dが、自己の負担部分を超えて、Eに対し損害を賠償したときは、その超える部分につき、Aに対し、Aの負担部分の限度で求償することができる。
正しい。本肢記述のとおり(民法第715条、民法第719条第1項、判例)。

1999年(平成11年)

【問 9】 Aの被用者Bが、Aの事業の執行につきCとの間の取引において不法行為をし、CからAに対し損害賠償の請求がされた場合のAの使用者責任に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
1 Bの行為が、Bの職務行為そのものには属しない場合でも、その行為の外形から判断して、Bの職務の範囲内に属すると認められるとき、Aは、Cに対して使用者責任を負うことがある。
正しい。被用者の職務行為そのものには属しない場合でも、その行為の外形から判断して、職務の範囲内に属すると認められるときは、使用者も使用者責任を負う(民法第715条、判例)。
2 Bが職務権限なくその行為を行っていることをCが知らなかった場合で、そのことにつきCに重大な過失があるとき、Aは、Cに対して使用者責任を負わない。
正しい。被用者が職務権限なくその行為を行っていることについて、第三者が悪意の場合、または、重過失によって知らなかった場合には、当該損害は事業の執行について加えた損害とはいえず、この場合、使用者は第三者に対して使用者責任は負わない(民法第715条、判例)。
3 Aが、Bの行為につきCに使用者責任を負う場合は、CのBに対する損害賠償請求権が消滅時効にかかったときでも、そのことによってAのCに対する損害賠償の義務が消滅することはない。
正しい。被用者の賠償債務と使用者の賠償債務は不真正連帯債務と解すべきであり、債務者の1人に生じた事由は、弁済など債権を満足させるものを除いて、ほかの債務者の債務に影響を及ぼさない(民法第715条、判例)。
4 AがBの行為につきCに対して使用者責任を負う場合で、AがCに損害賠償金を支払ったときでも、Bに故意又は重大な過失があったときでなければ、Aは、Bに対して求償権を行使することができない。
誤り。使用者が被害者に損害賠償金を支払ったときは、被用者に対して求償することができる(民法第715条第3項)。

1994年(平成6年)

【問 7】 Aは、宅地建物取引業者Bに媒介を依頼して、土地を買ったが、Bの社員Cの虚偽の説明によって、損害を受けた。この場合の不法行為責任に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
1 Aは、Cの不法行為責任が成立しなければ、Bに対して損害の賠償を求めることはできない。
正しい。本肢記述のとおり(民法第715条)。
2 Aは、Bに対して不法行為に基づく損害の賠償を請求した場合、Cに対して請求することはできない。
誤り。Aは、Bに対して不法行為に基づく損害の賠償を請求した場合、Cに対しても請求することができる(民法第715条)。
3 Aは、Cの虚偽の説明がBの指示によるものでないときは、Cに対して損害の賠償を求めることができるが、Bに対しては求めることができない。
誤り。Aは、Bに対してもCに対しても、不法行為に基づく損害の賠償を請求をすることができる(民法第715条)。
4 Bは、Aに対して損害の賠償をした場合、Cに求償することはできない。
誤り。Bは、Aに対して損害の賠償をした場合、Cに求償することができる(民法第715条第3項)。

1992年(平成4年)

【問 9】 不法行為に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
4 従業者Aが宅地建物取引業者Bの業務を遂行中に、第三者Cに不法行為による損害を与えた場合、Bは、その損害を賠償しなければならないが、Aに対してその求償をすることはできない。
誤り。Bは、Aに対して求償することができる(民法第715条)。

関係法令

このページを閉じる

ページ上部に戻る