民法第94条(虚偽表示)

2015年(平成27年)

【問 2】 Aは、その所有する甲土地を譲渡する意思がないのに、Bと通謀して、Aを売主、Bを買主とする甲土地の仮装の売買契約を締結した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。なお、この問において「善意」又は「悪意」とは、虚偽表示の事実についての善意又は悪意とする。
1 善意のCがBから甲土地を買い受けた場合、Cがいまだ登記を備えていなくても、AはAB間の売買契約の無効をCに主張することができない。
正しい。相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。この規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない(民法第94条)。この第三者は、善意であればよく登記を備えている必要はない(最判S44.5.27)。
2 善意のCが、Bとの間で、Bが甲土地上に建てた乙建物の賃貸借契約(貸主B、借主C)を締結した場合、AはAB間の売買契約の無効をCに主張することができない。
誤り。虚偽表示の無効を対抗することができない第三者とは、虚偽表示の当事者及びその一般承継人(相続人などのこと)以外の者であって、虚偽表示があったことについて新たに法律上の利害関係を有するに至った者をいう。本肢のCは、仮装売買された甲土地に対して法律上の利害関係を有するわけではないので、ここでいう第三者には該当しない(民法第94条、最判S57.6.8)。したがって、AはAB間の売買契約の無効をCに主張することができる。
3 Bの債権者である善意のCが、甲土地を差し押さえた場合、AはAB間の売買契約の無効をCに主張することができない。
正しい。判例によれば、本肢のCは「第三者」に含まれる。したがって、AはAB間の売買契約の無効をCに主張することができない(民法第94条、最判S48.6.28)。
4 甲土地がBから悪意のCへ、Cから善意のDへと譲渡された場合、AはAB間の売買契約の無効をDに主張することができない。
正しい。虚偽表示の「第三者」には、その者からさらに甲土地を取得した「転得者D」も含まれる。この場合は、第三者以降に1人でも善意の者がいるときは、AはAB間の売買契約の無効をDに主張することができない(民法第94条、最判S50.4.25)。

2012年(平成24年)

【問 1】 民法第94条第2項は、相手方と通じてした虚偽の意思表示の無効は「善意の第三者に対抗することができない。」と定めている。次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、同項の「第三者」に該当しないものはどれか。
1 Aが所有する甲土地につき、AとBが通謀の上で売買契約を仮装し、AからBに所有権移転登記がなされた場合に、B名義の甲土地を差し押さえたBの債権者C
第三者に該当する。仮装譲渡された甲土地を差し押さえた差押債権者Cも第三者に該当する(民法第94条第2項、判例)。第三者とは、虚偽表示の当事者およびその包括承継人(相続人など)以外の者であって、そのうち虚偽表示によって生じた法律関係について、別の法律原因によって新たに利害関係人に立つに至った者である。第三者の具体的事例には、不動産に関する仮装譲渡の譲受人からその登記を信頼してこれを取得した者(最判S28.10.1)、このような仮装譲受人の不動産に対して抵当権を設定した者(大判T4.12.17)、仮装の抵当権者からの転抵当権者(最判S55.9.11)、虚偽表示の目的物を差し押さえた仮装譲受人の債権者(最判S48.6.28)、仮装の債権に基づいて仮装の質権を設定していた者の債権を質権とともに譲り受けた者(大判S6.6.9)、などがある。
2 Aが所有する甲土地につき、AとBの間には債権債務関係がないにもかかわらず、両者が通謀の上でBのために抵当権を設定し、その旨の登記がなされた場合に、Bに対する貸付債権を担保するためにBから転抵当権の設定を受けた債権者C
第三者に該当する。仮装の抵当権者からの転抵当権者は第三者に該当する(民法第94条第2項、判例)。なお、第1肢の解説も参照。転抵当とは、抵当権者がその抵当権をもって自己または他人の債権の担保とすることをいう(民法第376条第1項前段)。転抵当権者は、原抵当権の被担保債権を限度として優先弁済を受けることになるが、競売配当時に原抵当権の被担保債権が減っていれば、その額までが優先弁済の限度である。また、転抵当権を実行するには、転抵当権の弁済期到来だけでなく、原抵当権の被担保債権の弁済期も到来していることが必要である。
3 Aが所有する甲土地につき、AとBが通謀の上で売買契約を仮装し、AからBに所有権移転登記がなされた場合に、Bが甲土地の所有権を有しているものと信じてBに対して金銭を貸し付けたC
第三者に該当しない。Bに対して金銭を貸し付けただけの一般債権者Cは、第三者に該当しない(民法第94条第2項)。なお、本肢の他、第三者に該当しない者としては、債権の仮装譲受人から取り立てのために債権を譲り受けた者(大決T9.10.18)、仮装売買から生ずる債務者の登記請求権をそれと直接関係ない債権に基づいて代位行使する債権者(大判S18.12.22)、賃借人が借地上の建物を虚偽譲渡した場合の土地賃貸人(最判S38.11.28)、土地の仮装譲受人からその土地上の建物を賃借した者(最判S57.6.8)、などがある。
4 AとBが通謀の上で、Aを貸主、Bを借主とする金銭消費貸借契約を仮装した場合に、当該仮装債権をAから譲り受けたC
第三者に該当する。仮装債権の譲受人は、第三者に該当する(民法第94条第2項、判例)。なお、第1肢の解説も参照。

2010年(平成22年)

【問 4】 AがBから甲土地を購入したところ、甲土地の所有者を名のるCがAに対して連絡してきた。この場合における次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
4 Cは債権者の追及を逃れるために売買契約の実態はないのに登記だけBに移し、Bがそれに乗じてAとの間で売買契約を締結した場合には、CB間の売買契約が存在しない以上、Aは所有権を主張することができない。
誤り。CB間の売買は、通謀虚偽表示であり、Aが善意であるときは、Aは甲地の所有権を主張することができる(民法第94条第2項)。

2008年(平成20年)

【問 2】 所有権がAからBに移転している旨が登記されている甲土地の売買契約に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
2 DはBとの間で売買契約を締結したが、AB間の所有権移転登記はAとBが通じてした仮装の売買契約に基づくものであった場合、DがAB間の売買契約が仮装であることを知らず、知らないことに無過失であっても、Dが所有権移転登記を備えていなければ、Aは所有者であることをDに対して主張できる。
誤り。AB間の契約は虚偽表示により無効である。この無効は善意の第三者Dに対しては対抗することができない(民法第94条)。なお、Dが保護されるためには移転登記を備える必要はない。

2007年(平成19年)

【問 1】 A所有の甲土地についてのAB間の売買契約に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
2 AB間の売買契約が、AとBとで意を通じた仮装のものであったとしても、Aの売買契約の動機が債権者からの差押えを逃れるというものであることをBが知っていた場合には、AB間の売買契約は有効に成立する。
誤り。Bの善意・悪意は関係なくAB間の虚偽表示は無効である(民法第94条第1項)。

 

【問 3】 Aが所有者として登記されている甲土地の売買契約に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
2 Aと売買契約を締結したCが、登記を信頼して売買契約を行った場合、甲土地がAの土地ではなく第三者Dの土地であったとしても、Dの過失の有無にかかわらず、Cは所有権を取得することができる。
誤り。例えば、自分の知らない間に不実の登記がされ、知った後もそれを放置して容認するような行動をとり、虚偽の外観の作出に関与したと考えられる場合のように不動産の真の所有者に過失がある場合は、民法第94条第2項の通謀虚偽表示の規定が類推適用され、不実の登記について善意無過失の者は保護される(判例)。したがって、Dの過失の有無にかかわらず、Cが所有権を取得するとする本肢は誤り。

2004年(平成16年)

【問 1】 A所有の土地につき、AとBとの間で売買契約を締結し、Bが当該土地につき第三者との間で売買契約を締結していない場合に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。
2 Aが、強制執行を逃れるために、実際には売り渡す意思はないのにBと通謀して売買契約の締結をしたかのように装った場合、売買契約は無効である。
正しい。相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする(民法第94条第1項)。

2003年(平成15年)

【問 3】 Aは、自己所有の甲地をBに売却し引き渡したが、Bはまだ所有権移転登記を行っていない。この場合、民法の規定及び判例によれば、次の記述のうち誤っているものはどれか。
4 AとFが、通謀して甲地をAからFに仮装譲渡し、所有権移転登記を得た場合、Bは登記がなくとも、Fに対して甲地の所有権を主張することができる。
正しい。Fは無権利者であり、Bは登記がなくても対抗できる(民法第94条第1項、第177条、判例)。

2000年(平成12年)

【問 4】 Aが、債権者の差押えを免れるため、Bと通謀して、A所有地をBに仮装譲渡する契約をした場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
1 BがAから所有権移転登記を受けていた場合でも、Aは、Bに対して、AB間の契約の無効を主張することができる。
正しい。本肢記述のとおり(民法第94条第1項)。
2 Cが、AB間の契約の事情につき善意無過失で、Bからこの土地の譲渡を受けた場合は、所有権移転登記を受けていないときでも、Cは、Aに対して、その所有権を主張することができる。
正しい。本肢記述のとおり(民法第94条第2項)。
3 DがAからこの土地の譲渡を受けた場合には、所有権移転登記を受けていないときでも、Dは、Bに対して、その所有権を主張することができる。
正しい。無権利者Bに対しては、Dは登記がなくても対抗できる(民法第94条第1項、第177条)。
4 Eが、AB間の契約の事情につき善意無過失で、Bからこの土地の譲渡を受け、所有権移転登記を受けていない場合で、Aがこの土地をFに譲渡したとき、Eは、Fに対して、その所有権を主張することができる。
誤り。EとFは対抗関係になり、Eは登記を備えていないのでFに対抗できない(民法第94条第2項、第177条、判例)。

1997年(平成9年)

【問 7】 不当利得に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
4 土地を購入したHが、その購入資金の出所を税務署から追求されることをおそれて、Iの所有名義に登記し土地を引き渡した場合は不法原因給付であるから、Hは、Iに対しその登記の抹消と土地の返還を求めることはできない。
誤り。判例では、本肢の場合は、民法第708条でいう不法の原因にはならないとして、返還請求を認めている。本肢のHとIの行為は、通謀虚偽表示となり、Hは、Iに所有権移転登記の抹消とその土地の返還を求めることができる(民法第94条、第708条、判例)。

1995年(平成7年)

【問 2】 Aの所有する土地をBが取得した後、Bが移転登記をする前に、CがAから登記を移転した場合に関する次の記述のうち、民法及び不動産登記法の規定並びに判例によれば、BがCに対して登記がなければ土地の所有権を主張できないものはどれか。
1 BがAから購入した後、AがCに仮装譲渡し、登記をC名義に移転した場合
主張できる。AのCに対する仮装譲渡は通謀虚偽表示で無効となる。このため、Cは無権利者となるので、Bは登記なくしてCに対抗することができる(民法第94条第1項、第177条)。

 

【問 4】 AとBは、A所有の土地について、所有権を移転する意思がないのに通謀して売買契約を締結し、Bの名義に移転登記をした。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
1 Bがこの土地にCに対する抵当権を設定し、その登記をした場合で、CがAB間の契約の事情を知っていたときは、Aは、Cに対して抵当権設定行為の無効を主張することができる。
正しい。相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする(民法第94条第1項)。この意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができないが、本肢のCは悪意なので、Aは、Cに対して抵当権設定行為の無効を主張することができる(同条第2項)。
2 Bがこの土地をDに売却し、所有権移転登記をした場合で、DがAB間の契約の事情を知らなかったことについて過失があるときは、Aは、Dに対してこの土地の所有権を主張することができる。
誤り。Dは善意あればよく、過失の有無は問わない(民法第94条第2項、判例)。
3 Aの債権者Eは、自己の債権を保全するため、Bに対して、AB間の契約の無効を主張して、Aの所有権移転登記抹消請求権を代位行使することができる。
正しい。債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる(民法第423条第1項)。AB間の売買契約は無効であり、Eは、自己の債権を保全するため、Bに対して、Aの所有権移転登記抹消請求権を代位行使することができる(同法第94条第1項)。
4 BがFに、さらにFがGに、それぞれこの土地を売却し、所有権移転登記をした場合で、AB間の契約の事情について、Fは知っていたが、Gが知らなかったとき、Gは、Aに対しこの土地の取得を主張することができる。
正しい。通謀虚偽表示による無効は、善意の第三者には対抗できず、この善意の第三者には転得者(転得者からさらに譲り受けた者)も含まれる(民法第94条第2項、判例)。

1993年(平成5年)

【問 3】 Aが、その所有地について、債権者Bの差押えを免れるため、Cと通謀して、登記名義をCに移転したところ、Cは、その土地をDに譲渡した。この場合、民法の規定及び判例によれば、次の記述のうち正しいものはどれか。
1 AC間の契約は無効であるから、Aは、Dが善意であっても、Dに対し所有権を主張することができる。
誤り。相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。この意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない(民法第94条)。
2 Dが善意であっても、Bが善意であれば、Bは、Dに対して売買契約の無効を主張することができる。
誤り。Dが善意のときは、Aの債権者Bも、Bに対抗することができない(民法第94条、判例)。
3 Dが善意であっても、Dが所有権移転の登記をしていないときは、Aは、Dに対し所有権を主張することができる。
誤り。善意の第三者Dは登記がなくてもAに対抗することができる(民法第94条、判例)。
4 Dがその土地をEに譲渡した場合、Eは、Dの善意悪意にかかわらず、Eが善意であれば、Aに対し所有権を主張することができる。
正しい。本肢記述のとおり(民法第94条、判例)。

1991年(平成3年)

【問 4】 Aが所有する土地について次に掲げる事実が生じた場合、民法の規定及び判例によれば、次の記述のうち誤っているものはどれか。
3 Aの所有地にFがAに無断でF名義の所有権移転登記をし、Aがこれを知りながら放置していたところ、FがF所有地として善意無過失のGに売り渡し、GがG名義の所有権移転登記をした場合、Aは、その所有権をGに対抗することができない。
正しい。Fは本来無権利者であるが、Aがこれを知りながら放置していたため、虚偽表示の規定が類推適用される結果、Aは、善意の第三者Gに、この無効を主張することはできない(民法第94条、第177条、判例)。

1990年(平成2年)

【問 4】 A所有の土地が、AからB、Bから善意無過失のCへと売り渡され、移転登記もなされている。この場合、民法の規定によれば、次の記述のうち誤っているものはどれか。
4 Aが差押えを免れるため、Bと通謀して登記名義をBに移した場合、Aは、AB間の契約の無効を主張することはできるが、Cに対して所有権を主張することはできない。
正しい。本肢記述のとおり(民法第94条)。

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