民法 第1条(基本原則)

2012年(平成24年)

【問 3】 次の記述のうち、民法の条文に規定されているものはどれか。
2 契約締結に当たって当事者が基礎とした事情に変更が生じた場合に、当事者は契約の再交渉を求めることができる旨
条文に規定されていない。民法には、契約当事者がいったん契約を締結するに至った以上、「契約は守らなければならない。」という原則がある。しかし、契約締結時に当事者双方が予測することのできなかった著しい事情の変更が当事者の責めに帰することのできない事由によって生じ、そのため、当初の契約内容をそのまま実現すると明らかに当事者間において衡平に反する効果が生ずる場合には、それによって不利益を被る当事者が契約内容の改訂を請求し、又は、契約を解除することが信義則上認められなければならない。これを「事情変更の原則」という。本肢は、「事情変更の原則」についての記述であり、この原則は、民法の条文に規定されていない(民法第1条第2項参照)。

2006年(平成18年)

【問 1】 次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
1 契約締結交渉中の一方の当事者が契約交渉を打ち切ったとしても、契約締結に至っていない契約準備段階である以上、損害賠償責任が発生することはない。
誤り。契約の交渉段階に入ると契約が締結されるかどうかに関係なく、相互に相手方の人格や財産を害しない信義則上の義務を負う。この信義則に違反して相手方に損害を及ぼしたときは、契約が締結されないとしても契約責任としての損害賠償責任がある(民法第1条第2項、判例)。
2 民法第1条第2項が規定する信義誠実の原則は、契約解釈の際の基準であり、信義誠実の原則に反しても、権利の行使や義務の履行そのものは制約を受けない。
誤り。権利の行使や義務の履行には信義誠実の原則が適用され制約を受ける(民法第1条第2項)。
3 時効は、一定時間の経過という客観的事実によって発生するので、消滅時効の援用が権利の濫用となることはない。
誤り。時効の援用をすることが場合によっては、信義誠実の原則に違反したり、権利の濫用になることがある(民法第1条第2項・第3項、判例)。
4 所有権に基づく妨害排除請求が権利の濫用となる場合には、妨害排除請求が認められることはない。
正しい。本肢記述のとおり(民法第1条第3項)。

関係法令

法令解説

  • 第1条は第2条とともに、憲法第29条第2項の規定(財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。)に照らし、私権の社会性を明らかにしたものである。

判例

  • 河川に木材を流す慣行上の権利を有する村民と、その河の上流にダムをつくった発電会社との争いについて、発電会社の社会的重要性、会社が一定の補償金を支払っていること、その他諸般の事情を考慮して流水使用権に制限を加え、発電会社の使用権に譲歩すべきである(最判昭25・12・1)。
  • 私権を有する者は、義務者に対しては、義務の履行を要求し、権利を侵害する者に対しては、その侵害を排除し、または損害賠償の請求をすることができる。この場合に、義務者なり、侵害した者が、その要求を応じないときに、私権を有する者が自分の権利の内容を実現する、いわゆる自力救済は許されない。しかし、法律の定める手段によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能または著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においては、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるものと解するのは妨げない(最判昭40・12・7)。
  • 1万円の債務の弁済にわずか100円不足しているというような僅少な不足を理由に債権証書の返還や抵当権の抹消登記を拒むのは信義則に反する(大判昭9・2・26)。
  • 買戻代金の提供に僅少の不足(527円を供託したが2円8銭不足していた)があることを理由に買戻しの効力を否認するのを信義則に反するものとした(大判大9・12・18)。
  • 持参債務における弁済の提供について、債務者が債権者の住所以外の場所に金銭を持っていったからといって、債権者に別段不利益がなくて受け取ることができるならば、それの受領を拒むのは信義則に反する(大判昭14・3・23)。
  • 抵当権者が弁済期の後、数年たってから抵当権を実行したが、その間の経済界の変動のため、弁済期に完済に足りた抵当物が下落し、わずかの弁済しか得られなかったので保証人に請求した場合、信義則から保証人の責任はその限度で免れる(大判昭8・9・29)。
  • 金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求訴訟を提起することは信義則から許されない(最判平10・6・19)。
  • 解除権を有する者が久しきにわたって権利を行使せず、相手方ももはや解除権を行使しないであろうという期待を抱いているときに、解除権の行使を認めないという、いわゆる権利失効の原則も、信義則に基礎をおいている(最判昭30・11・22)。
  • 地方公共団体が買取りを望んで結んだ土地の売買予約の成立後、当事者双方が予想せず、その責めに帰すことのできない事情により価額が高騰した後に予約完結権が行使されても、信義則に反しない(最判昭56・6・16)。
  • 信義則は、債権・債務の関係だけでなく、広く物権関係や身分関係についても適用されるべきであるし、法律行為の解釈についてもこの原則が基準の作用を果たしている(最判昭32・7・5)。
  • 権利濫用の成否は、権利の行使によって権利者の受ける利益と相手方のこうむる損害とを比較考量して、社会全体の利益という標準によって決めていこうと解する(最判昭31・12・20)。
  • 黒部渓谷に沿って、湯元から他人の土地を借りて(この利用権は対抗できない利用権であった)その上に木管を引いて湯を導いて温泉(宇奈月温泉)を経営している者に対して、それを奇貨(利用すれば思わぬ利益を得られそうな事柄・機会)として、当該土地を買い受けたうえ、その土地を買い取ってくれ、さもなければその木管を除去してくれと請求することは権利の濫用にあたる(大判昭10・10・5)。
  • 電機会社が発電所水路として隧道(すいどう―トンネル)をつくるにあたって他人の地下をなんの権利もなく貫通させたのに対して、その排除を求めることは権利の濫用であるとされた(大判昭11・7・17)。
  • 鉄道院が鉄道の敷設に適当な注意を払わなかったため由緒ある松の老樹(武田信玄が旗を掛けたとう老樹)を煤煙で枯死させた事件に関し、鉄道院の鉄道敷設は、松の樹の所有者に対して権利の濫用を超えたもので不法行為になるとして損害賠償の義務を負わされたことがある(大判大8・3・3)。
  • 日照権の侵害について、権利の濫用にあたり、違法性があるとして不法行為の成立を認めた(最判昭47・6・27)。

このページを閉じる

ページ上部に戻る